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最高裁判所第二小法廷 昭和40年(あ)230号 判決

主文

原判決中「当審における未決勾留日数中九〇日をその本刑に算入する」との部分を破棄する。

その余の部分に対する検察官の本件上告を棄却する。

理由

福岡高等検察庁検事長井本台吉の上告趣意について。

所論にかんがみ、本件記録を調べてみるに、被告人に対する未決勾留、裁判、刑の執行等につき、以下の事実を認めることができる。すなわち、被告人は本件につき昭和三九年四月二〇日勾留状の執行を受け、爾来第一審、原審および当審を通じて勾留を継続されているもので、同年八月一〇日第一審裁判所たる福岡地方裁判所小倉支部において懲役一〇月(未決勾留日数中六〇日本刑算入)に処せられ、同年同月一九日控訴の申立をし、昭和四〇年一月九日福岡高等裁判所において本件控訴を棄却し、かつ、原審における未決勾留日数中九〇日を右第一審判決の本刑に算入する旨の判決言渡を受けたものであるが、他方、被告人は、本件とは別に、監禁致傷等被告事件(以下、別件という。)につき昭和三八年四月八日勾留状の執行を受け、同年同月一六日大分地方裁判所中津支部に起訴され、同年一〇月一〇日保釈釈放せられ、昭和三九年四月二一日同裁判所において懲役一年六月(未決勾留日数中一五〇日本刑算入)に処せられ、保釈の失効により同年同月二三日収監され、同年五月二日控訴の申立をし、同年一二月四日福岡高等裁判所において控訴棄却、第二審の未決勾留日数中一六〇日を右第一審判決の本刑に算入する旨の判決言渡を受け、同判決は同年同月一九日確定し即日右刑の執行を受け、爾来継続して受刑中であることを認めることができる(検察官上告趣意書添付の別表参照)。

そこで、原判決中、未決勾留日数本刑算入の裁判の当否につき検討してみるに、原審における未決勾留日数は被告人の本件控訴申立の日である昭和三九年八月一九日から原判決言渡の日の前日である昭和四〇年一月八日までの計一四三日であるが、このうち、別件の刑執行開始日たる昭和三九年一二月一九日から右昭和四〇年一月八日までの二一日間は、刑の執行と重複する期間であって、かような期間について本刑算入を認めることは不当に被告人に利益を与えるもので許されないとすること、当裁判所屡次の判例の示すところであるから、右二一日間は本刑算入期間よりまずもって控除すべきものである。

ところで、すでに明らかなとおり、本件に対する未決勾留は、被告人が別件につき収監された昭和三九年四月二三日から別件に対する第二審判決確定の日の前日である昭和三九年一二月一八日までの間において、別件に対する未決勾留と重複しており(計二四〇日)、その間、別件控訴申立の日の前日までの九日、同上告申立期間中の一五日および本件控訴申立の日の前日までの九日の、各未決勾留法定通算日数並びに別件第二審判決による一六〇日および本件第一審判決による六〇日の、各未決勾留裁定算入日数があるので、この点について検討する。

さて、一般に、未決勾留が、他事件に対する裁判確定によりその本刑たる自由刑に算入されてすでにその執行に替えられた他の未決勾留と重複している場合に、かような未決勾留をさらに本刑たる自由刑に算入することは、刑の執行自体と重複している場合と同様、被告人に不当な利益を与えるもので、刑法二一条、刑訴法四九五条本来の趣旨に違反し許されないものといわなければならない(もっとも、右算入に充てられる未決勾留の日数は、年、月、日のいずれをもって示されるを問わず、刑の執行があったとされる刑量を示すにすぎないものとして扱われるべきであるから、当該未決勾留日数につき、未決勾留期間中の暦に従った特定の日を起算日として刑の執行があったものとし、右重複の有無、範囲を論ずることの失当であることは当然である。)。以上の見地に立って、原裁判所が果して未決勾留日数本刑算入の裁判をする余地があったか否かを検討するに、前記重複日数二四〇日中、別件における未決勾留法定通算日数計二四日、同裁定算入日数一六〇日を控除すべきであったことは当然であり、さらに本件第一審における未決勾留法定通算日数九日のほか、本件第一審判決による未決勾留裁定算入日数六〇日のうちの五七日(別件未決勾留と重複しない本件勾留期間、すなわち、昭和三九年四月二〇日から同年同月二二日までの三日間を差し引いたもの)をも斟酌、考慮すべきであったことも明らかで、これらの本刑算入日数を合算すると計二五〇日となるから、結局原審においては、未決勾留日数本刑算入の裁判をする余地がなかったことに帰着し、原判決中、原審未決勾留日数九〇日の本刑算入を言い渡した部分は、所論引用の各判例に違反するものであって、論旨は理由があり、原判決中の右部分は刑訴法四〇五条二号、三号、四一〇条一項本文により破棄を免れないものというべきである。

よって、同法四一三条但書により原判決中「当審における未決勾留日数中九〇日をその本刑に算入する」との部分を破棄し、その余の部分に対する検察官の上告は上告趣意として何らの主張がなく、従ってその理由がないことに帰するから、刑訴法四一四条、三九六条によりこれを棄却し、同法一八一条一項但書により、当審における訴訟費用は被告人に負担させないこととし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

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